2021/05/11

ぬか床のアビス


ぬか床をかき混ぜる時、ぬか床もまたこちらをかき混ぜているのだ。

と、誰かが言ったとか、言わないとか————


私はもとより漬物を漬けたり、野菜を干して干し野菜にしたり、そういうのが好きである。ラッキョウ漬け、梅干し、ザワークラウトとか。味噌作ったり、チャーシュー作ったりとかも近いノリかな。

そういう季節性やイベント性の高いもののみならず、冷蔵庫には常に何らかの漬物が入っている。その時安かったなんかしらの野菜...例えば大根、玉ねぎ、キャベツなんかの酢漬けは癖がなくて箸休めに最適だし、傷みにくくて助かる。キャロットラペも漬物の一種か?長芋やズッキーニ辺りは安くないので常備菜とはいかないが、こいつらは醤油やニンニクなどと合わせて一手間かけると数日は楽しめるいいつまみだ。

これはベランダで干した椎茸!!しおしおのぱー!


そんな気質を持っているのに、これまでの人生ぬか漬けにはイマイチハマらなかった!
数年前一度作ってみたこともあるが、ぬか床を毎日(※とは限らないが)世話しなきゃならないというのが無理だった。当時は夜飲みに行って突発的にそのまま外泊したりなんかを頻繁にしていたし、旅行先にぬか床を連れて行くなんていうのも面倒だった。
友人から分けてもらったぬか床は、あっという間にダメになった。


そんなこんなでぬか漬け以外のものは大体漬けるよ、というスタンスでいた。
しかし昨年末、大根が激安だったのでここは一発、酢漬けに留まらず、沢庵漬けてみっか!!!と思い立ち、小泉先生のレシピ(https://koizumipress.com/archives/17661)を参考にすることにし、炒りぬかを購入した。

いりぬか!!

これは10日以上干して漬けられる目前の大根!!

沢庵はつつがなく漬け終えたが、ぬかはまだ大量にある。

そこで私は以前挫折したぬか漬けライフ、今ならできるのでは?と思い立った。
以前と違ってめっきり外泊などしないライフスタイルになっていたし、このコロナ禍のご時世もあいまってほとんど自宅にいる。

そう今こそだ!!


これは新宿で見つけた今でしょ!


かくして5年ぶり2回目、私のぬか床との付き合いがまた始まった。

野菜のかけらで捨て漬けをし、具合をみては鰹節を足してみたり唐辛子を足してみたり、気になって無駄に1日に何度もかき混ぜたり....たり...すること約一ヶ月。

ついにぬか床が出来上がった!!!!

大根を漬けた。美味い。
蕪や人参も漬けた。美味い。
ちょっと小分けに取り出して豚肉や鯖を漬けて焼いた。美味い。
大体なに漬けても美味い。嬉しい...。


・・・


しかし、冷やし中華を始めたら終わる日が来るように、漬物は漬けたら食べなくてはならない。
次は何を漬けるのか、次は何を食べなければならないのか、今日はあんまりぬか漬けな気分じゃないけどそろそろ食べないと古漬けになってしまう、ところで今日のぬか床の具合はどうだろうか、水分が増えてきたからぬかを足さなくては...、

いつしか楽しかったはずの「次は何を漬けようかな」が、次第に「次は何を漬けなくてはならないのか」に変わり、義務感と苦痛を帯びてきた。


毎日、いや毎食、ぬか床とそこに漬けられているぬか漬けのことを気にしてしまう。
私の生活は、いや精神はぬか床に侵食され始めた。


ぬか漬けを食べているのは私なのに、侵食されるのも私とはこれいかに?
その時、かの有名なあの言葉が頭をよぎった——

「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」
と。

そう、

ぬか床をかき混ぜる時、ぬか床もまたこちら(の生活と心を)をかき混ぜているのではないか?
と。


私はぬか床に心をかき乱され、疲れ果てた。


ぬか床やめました!!!!!!!



いつかぬか床に打ち勝つ精神を持てたと思った時、それとも単に懲りずにただの思いつきでまたぬか床を育てる日が来るかもしれませんが、しばらくはいいや。


ぬか床は思ったよりも強大な力であなたを支配する。
皆様もゆめゆめお忘れなきよう......。



(長いね!)

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